学部?大学院
繁益 陽介さんからのメッセージ
1. 自己紹介をお願いします。
兵庫県生まれです。茨城県つくば市で畜産研究に従事する傍ら、手話言語普及活動やろうあ運動などに携わってきました。 2015年より手話言語学習者の心理や、時間軸からみた手話言語などの研究活動に関わってきています。
2. 情報アクセシビリティ専攻に入る前はどんな活動をされてきていましたか。
ろう者達がいつでも、どこでも、だれでも手話言語を用いてのお話ができる世の中になるには、多くの方々の英知の集結や活動の積み重ねなどが欠かせません。
その甲斐があって、現在は厚生労働省が定めたカリキュラムに準じた手話奉仕員養成講座や手話通訳者養成講座という地域密着型の公的でかつ、全国均一的な性格をもった言語習得支援が定着しています。 その講座の主な担い手が、地域に在住するろう者や通訳者達であり、私もその一人です。
ですが、手話言語を含めた第2言語習得は容易な事ではありませんし、人や時代の変化を相手にした支援活動であるため、習得環境に配慮した支援活動が求められています。
しかし、それが何なのかというもやもや感を抱えながら現場で習得支援をしている自分がいました。 自身、畜産業界で研究活動をしていたこともあり、物事を科学的に解明したうえで実践に繋がるアイディアを手話習得支援へ活かせる研究が必要ではないかと考えていました。
3. 情報アクセシビリティ専攻があることを知ったきっかけはなんですか。
幸い、私が在住していた地域(茨城県つくば市)に筑波技術大学が置かれていたこともあり、地域活動者としてその大学関係者と日頃から交流させていただいた縁で、情報アクセシビリティ専攻の手話教育コースをご紹介いただきました。 「自身の思いの発信」と「人との縁」が交差がなくては成り立たなかったと思いました。
4. 研究活動はどのようなものでしたか。
手話奉仕員養成講座を修了した時点の手話言語学習者の手話言語力は、手話言語と日本語間の通訳技術を学習する段階には至っていない、という評価が手話講師、聴覚障害団体および手話関係者の間に広く認識されています。
手始めに、全日本ろうあ連盟のご協力のもと、都道府県の聴覚障害者団体へ手話奉仕員養成講座修了の手話言語学習者への支援状況を伺う質問紙調査を実施しました。 結果、地域差が大きく、全国的に具体的なカリキュラムや支援方法などが確立されていないことがわかりました。
次に、手話言語学習者の心理状況を把握するために、5か所にある手話奉仕員養成講座会場へ赴き、その講座修了時期にある約70名の手話言語学習者を対象に、学習者自身の習得への自信度をうかがう質問紙調査を実施しました。 その結果、顔から発するサイン(非手指動作)およびリズムへの理解度が低いことが明らかになりました。特に、リズムに関しての明示的知識が少ないことに着目し、プロソディーをふくめた“手話言語と時間軸との関係”を概念にした取り組みに進みました。
手話言語学習者、手話通訳士、ろう者を対象に、手話言語表出の時間的な特徴を比較してみた結果、手話言語学習者は動作停止時間や1語彙あたりの表出時間が長くかつ学習者間のばらつきが手話通訳士やろう者より大きいことがわかりました。 このことから、時間軸的な見地に立った支援が必要と判断し、“読点”を意識した学習法を実験を経て提案しました。
5. 情報アクセシビリティ 専攻で学んだこと?成長したことはなんですか。
晴れて情報アクセシビリティ専攻 手話教育コースに社会人入学し、「手話言語」、「言語通訳」、「ろう者学」などといった、手話言語習得支援に必要な学問を体系的に学びました。 学問を体系的に学べることは、先人達の多くの研究、議論や実証の積み重ねがあってこそであり、改めて研究の重要さを実感し、私たちの院での研究成果を一つの石として石垣のように積み重ねればと思いながら学んでいきました。
基礎的な知識に、先生の皆様からの知見や助言を借りながら、自分なりに手話言語習得支援についての調査、整理、課題抽出、研究テーマの決定、研究計画及び遂行、結果の検証を3年かけて行いました。 卒業して3年後に研究論文を改めて読み返すと、事前調査の質量や統計手法を含めた考察力が全然足りないなと一人で苦笑したものの、よくぞ3年でそこまでできたんだなと我ながら妙に感心したりもしました。 なによりも、未知なる部分を自分たちの手で解明し、それを世に発信する喜びを感じられるのが研究活動の醍醐味でしょうね。
6. 筑波技術大学で学ぶ意義とはなんだと思いますか。
広い視野を持ちつつ深く追求することが求められる研究生活は、先生だけでなく、先輩、同僚、後輩、研修生などの多くの仲間たちの存在は欠かせません。 その仲間たちと手話言語を用いて、議論だけでなく、雑談、冗談などを自由に語り合える空間は筑波技術大学大学院だからこそできます。
胸の中を深く潜るかのように考え、考え、考え抜くという研究活動への姿勢と仲間との手話言語による自由なコミュニケーションが交差することで、金の卵が産まれる確率が高まるように思います。 自身の研究テーマの目玉である「手話言語のプロソディ」はまさに金の卵であり、手話習得支援法の発展に大きな可能性を秘めていると思います。
手話言語を用いて生かされている自身をさらに高めてくれるところの一つに、手話言語環境が整っている筑波技術大学が存在するといっても過言ではありません。